大阪高等裁判所 昭和35年(く)81号 決定 1960年10月26日
少年 H(昭一五・九・六生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件申立の理由の要旨は、少年の事件は大したことはないから、家庭裁判所の審判手続は形式的に行われるだけで直ちに帰宅が許されるものと思つていたので、審判の時の態度が生意気と認められたかも知れないが、今は従来の所為につき深く反省し、将来真面目に働き、両親を安心させたいと考えているから医療少年院に送致することとした原決定は著しく不当であるからその取消を求めるというのであるが、記録を調べると、少年は昭和三五年八月一日、鉄道営業法違反事件で不処分決定を受けて帰宅後、母親に対して「名古屋へ行つて働くから一万円くれ」と要求し、これが聞き容れられないのに憤慨して、同月中頃肩書自宅で、鋏を弄んでこれを母親に見せつけ、更にこれを畳に投げつけ或は茶腕を投げて壊すなどし、両親の説得を全く受けつけず、「もう俺が死んだ方がいいんだろう、皆殺してしまうぞ」などといやがらせを言つていたもので、保護者の正当な監督に服しない性癖があつて、後記性格環境に照し将来罪を犯す虞があるのみならず、少年の性格、環境を審査すると、少年は内向的で劣等感が極めて強く、無気力、自閉的で一人の友人も持たず孤独で、家族との疏通を避ける傾向も強く、高校卒業後数回家出し、昭和三五年七月には家出後無賃乗車して旅行中保護され、同年八月一日前記不処分決定を受けたが、その後も家族とは打ちとけず、全くあてもない名古屋へ働きに行くなど言つていること、又次第に狂暴性も加わり、現在両親は少年に対して恐怖心を抱くほどで監護の意欲を失つていること、最近は近隣の者が自己の悪口を言つていると口ばしるなどの盲想を生じており精神分裂症の疑があることなどが認められる。
これらの事情を考えると少年を医療少年院へ送致することとした原決定は適切であると認められ、本件抗告は理由がないから、少年法第三三条第一項により主文のとおり決定をする。
(裁判長裁判官 松村寿伝夫 裁判官 小川武夫 裁判官 柳田俊雄)